読書メモ『東京どこに住む?住所格差と人生格差』速水健朗

完全にタイトルに釣られて購入した本。内容に関しては、書かれていることを全て鵜呑みにするのではなく、こういう意見もあるのだなくらいに受け取っておくのがよいと思うが、住む場所というのは人生を左右するとても重要な問題であり、大変興味深く読ませてもらった。

東京どこに住む? 住所格差と人生格差 (朝日新書)
速水健朗
朝日新聞出版 (2016-05-13)
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「西高東低」から「都心回帰」へ

東京で人気があるのは西側で、東側よりも西側の方が家賃相場が高いのが定説。戦後の持ち家政策によって東急線や中央線沿線に作られた郊外のニュータウン団地が人気だったため。しかし、最近は「西高東低」から「都心回帰」の動きが出てきている。

これは完全にそうだと思う。東京の郊外は既に広範囲に開発されてしまっていて、今から新築一戸建てを購入しようと思っても、都心から遠く離れた駅だったり、さらに駅までも徒歩数分とは言えないような場所になってしまう。また、これから確実に人口が減少していく中で、郊外の土地価格は下落することが予想される。それだったら、たとえ狭くて庭がなくても都心のマンションを購入した方が便利だし、資産価値も下がりにくいのではないかという考えは理にかなっている。

なぜ世界的に大都市に人口が集中しているのか

大都市部への一極集中は日本のみならず、世界中で同時に進行している。経済学者のロバート・ルーカスは、「他人の近くにいること」に対して金を払っている人達と指摘する。
同じく経済学者のティム・ハーフォードは、「他人の近くにいること」で得られる効用は「頭が良くなること」であると指摘する。なぜ、頭が良くなるのか。それは、人は近くにいると「お互いに学びあう」からだという。

優秀な人が都市に集まるからではなく、都市に住むと人は「頭が良くなる」から生産性が高くなるらしい。これに関しては、インターネットの発達により都市でなくても知的な生活は可能であり、そうとも言えなくなってきているのではないかと思った。

移動する能力の有無によって人生の可能性が大きく左右される時代

完全に同意。職業は何であれ、うまくいっている都市に移住すれば経済的恩恵を被ることができるとのこと。ITエンジニアはシリコンバレーに行けば新卒でも年収1000万円以上だ。シリコンバレーだからといって仕事の内容は大きく変わらない。ただし、その分だけ物価も高いわけだけど。

シリコンバレー(最近はサンフランシスコ)に限らず、地方から東京に出てくるだけで世界はガラっと変わる。自分もある時期に地方配属の仕事を辞めて東京に出てきたわけだが、東京では勉強会が頻繁に開催され、優秀な人が集まっていて刺激を受けたのを覚えている。

本書に記されている調査によると、日本人の生涯移動回数は平均4〜5回とアメリカの4分の1らしい。大企業がいとも簡単に傾いたり、日本の先行きも不透明な変化の大きい時代において、一つの土地に縛られるというのはチャンスを逃すことに繋がる。

先日、こんな興味深い記事もあったので、ここに紹介しておく。
日本人が「移動」しなくなっているのはナゼ? 地方で不気味な「格差」が拡大中 大都市と地方の、幸福と不幸 | 賢者の知恵 | 現代ビジネス [講談社]

「最近、恵比寿行かない」という30,40代の女性が増えている

そりゃそうだ。30,40代にもなると友人達も家庭を持ちはじめ、小さな子供がいる場合はお互いの家の近くで会う方が効率的だ。合コン等も目に見えて少なくなるので飲食店しかない恵比寿に行く用事はほとんどなくなる。著者とほぼ同世代である僕も、最近は近場で居心地のいいお店に行くことが多い。
これをもって恵比寿は終わった、今は墨田のバルがトレンディー(死語)だというのには無理がある。広く20代女性の意見も聞いてみるべきだと思う。

個人店もあってチェーン店もある街が住みやすい説

チェーン店の持つ自分が誰か問われない「匿名性」と、個人店の持つ地元に「根付いて暮らす」感覚、この両者を併せ持った場所が、今時の住みたい場所の理想型ではないだろうか。

これもよく分かる。人は生活していく上で、無意識のうちに複数の顔を使い分けている。職場の顔、家庭の顔、趣味の仲間うちでの顔といった具合に。何処で聞いたのか忘れてしまったが、複数の群れに同時に所属するというのは野生の動物にはできず、これが他の動物とは違う人間たる所以らしい。
SNSが流行っては廃れていくのは、ここに問題があるからだと思う。現状のSNSでは、複数の顔を使い分けることができない。特定のSNSがある程度流行ってユーザ数が増えてくると、同僚、家族、旧友などが一緒くたになるので、急に居心地が悪くなってしまう。アメリカの若者がFacebookを避けて、Snapchatに行くのも分かる気がする。誰だって自分の投稿を親には見られたくないものね。さらに親が空気を読まずにコメントなどしてきた日には…
ちょっと話がそれたけど、ガチガチの村社会ではなく、ある程度の匿名性があると居心地が良いというのはよく分かる。

「コンピュータの発達によって、人は都市に住まなくなる」というアルビン・トフラーの予言は外れた

予想が外れたと著者は言い切っているが、これはこれから起こることだと思う。リモートワークのインフラはまだまだ進化している途中である。前述の「人は都市に住むことによって頭が良くなる」がインターネット上で仮想的に実現できれば、ちょっと郊外で今より余裕のある生活をすることが可能になるはずである。
この”ちょっと郊外”というのがポイントで、全米で最も住みやすい都会の例としてポートランドが挙げられているが、ポートランドは適度な大きさのコンパクトシティなんだそうである。日本も東京一極集中が解消され、人口減少により30万人規模の地方都市が注目される時代がこれから来るかもしれない。個人的にも将来的に様々な問題が解消されたら、もっと自然が多い土地に住みたいと思っている。うちの妻はあまり乗り気ではないけれども…

 

ちなみに、僕は社会人になってから10回ほど引っ越しをしている(今数えてみた)。それぞれ思い返してみると、職場までの距離と住居自体の使い勝手が満足度の大部分を占めているような気がする。職場まで自転車や徒歩圏内にも住んでみたが、不思議なことに単純に近ければよいというわけでもなく、電車で数駅のほうが逆に住みやすいことが多かった。どこに住むのが幸せかについては、個々人によるパラメータが多すぎて一様にこれが正解と言えるようなものではないので、自分で考えるかもしくは家族で話し合う必要があるように思う。ただ一つ言えるのは、若いうちはいろいろな場所に住んで自分の肌で感じてみるのがよいということだ。

というわけで、さらっと読めていろいろなことを考えさせられるので、この本はお勧めです。